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最近の親が我が子をあまり叱らなくなった理由

  • 2025/12/14

現代の親が子どもを注意しなくなった背景

「最近の親は子どもを注意しない」という指摘は、確かに社会的に議論されています。しかし、この現象は単純な「親の怠慢」ではなく、現代社会の複雑な背景が絡み合っています。精神科医・公認心理師の視点から、その要因を解説します。

育児情報の氾濫と混乱

現代の親は、かつてないほど大量の育児情報に囲まれています。書籍、雑誌、テレビ、インターネット、SNSなど、あらゆる媒体から「正しい育児法」が発信されています。しかし、その内容は必ずしも一貫しておらず、時には矛盾しています。「叱ることは子どもの自尊心を傷つける」「褒めて育てるべき」「子どもの自主性を尊重すべき」といったメッセージが強調される一方で、「しつけは厳しく」「社会性を身につけさせるべき」という意見もあります。この情報の洪水の中で、親は「何が正しいのか」「どう叱ればいいのか」が分からなくなり、結果として行動を躊躇してしまうのです。特に、不適切な叱り方が「虐待」として批判されることへの恐怖が、親を萎縮させています。

「毒親」への恐怖と過剰な自己批判

SNSやメディアでは、「毒親」「機能不全家族」「アダルトチルドレン」といった言葉が広まり、親の不適切な養育が子どもに生涯にわたる傷を残すという情報が拡散されています。親自身が「自分の叱り方が将来子どもをダメにするのではないか」「トラウマを与えてしまうのではないか」と過度に心配し、注意すること自体を避けるようになります。特に、自分自身が厳しく育てられた経験を持つ親は、「自分は親のようにはなりたくない」と強く思い、反動で極端に寛容になることがあります。

子どもとの関係性への不安

現代の親は、子どもとの良好な関係を維持することに強い価値を置いています。「嫌われたくない」「拒絶されたくない」という不安から、叱ることで関係が悪化することを恐れます。特に共働き家庭では、子どもと過ごす時間が限られているため、その貴重な時間を「叱る」ことで費やすことに罪悪感を覚えます。「せっかくの休日なのに怒りたくない」という心理が働き、問題行動を見過ごしてしまうのです。また、思春期以降の子どもとの関係では、反抗や無視、暴言などを恐れ、「触らぬ神に祟りなし」という態度を取ることもあります。

親自身の心理的余裕の欠如

現代の親、特に母親は、育児、家事、仕事の三重負担に苦しんでいます。慢性的な疲労、睡眠不足、時間的余裕のなさが、適切な子育てを困難にしています。子どもを注意し、適切に対応するには、親自身に心理的・身体的エネルギーが必要です。しかし、疲弊しきった親には、「今これに対処する余力がない」「後で考えよう」と問題を先送りすることが習慣化します。また、うつ状態や不安障害など、親自身のメンタルヘルスの問題が背景にあることもあります。感情的に消耗している親は、子どもの行動に適切に対応する力を失っています。

孤立した子育てと相談相手の不在

核家族化、地域コミュニティの希薄化により、親は孤立した環境で子育てをしています。かつては祖父母や近所の人々が、自然に子どもを注意したり、親に助言したりしていましたが、現代ではそのような支援が失われています。相談相手がいないため、「この程度のことは注意すべきなのか」「どう叱るのが適切なのか」という判断を、親が一人で行わなければなりません。自信が持てず、結果として何もしないという選択をしてしまうのです。

発達障害への認識と対応の困難

近年、発達障害への理解が広まり、多くの親が「うちの子ももしかして…」と考えるようになりました。発達障害の子どもには、通常の叱り方が効果的でないばかりか、逆効果になることもあります。しかし、専門的な知識や支援がないまま、親は「どう対応すればいいか分からない」状態に置かれます。結果として、何も言わない、という消極的な対応に陥ります。また、実際に発達障害がある子どもの場合、癇癪や激しい反応を恐れて、親が萎縮してしまうこともあります。

デジタルデバイスへの依存と親の無力感

スマートフォン、タブレット、ゲーム機などのデジタルデバイスは、子どもを静かにさせる「魔法の道具」となっています。外出先で騒ぐ子どもに動画を見せれば、すぐに静かになります。この即効性に依存した結果、親は他の方法を使わなくなります。また、デジタルデバイスを取り上げようとすると、子どもの激しい抵抗に遭い、「もう無理」と諦めてしまいます。不登校とゲーム依存の関係も、親が介入しようとしても子どもの抵抗が強すぎて、結局放置せざるを得ないという無力感の表れです。

社会的な監視と批判への恐怖

公共の場で子どもを叱ると、周囲の視線が気になります。「虐待している」と通報されるのではないか、SNSで晒されるのではないか、という恐怖があります。実際に、公共の場で子どもを注意した親が、周囲から批判的な目で見られたり、「子どもがかわいそう」と言われたりすることもあります。この社会的なプレッシャーが、親を萎縮させています。

「叱る技術」の未習得

適切に注意するには、実は高度なスキルが必要です。感情的にならず、具体的に、建設的に、子どもの発達段階に応じて伝える技術は、自然に身につくものではありません。しかし、現代の親は、そのような技術を学ぶ機会がありません。自分の親のやり方をそのまま真似ることはできず(時代に合わないため)、かといって新しい方法を知らないため、結局何もできないのです。

まとめと提言

「親が注意しない」現象は、親個人の問題ではなく、社会全体の構造的問題です。親を責めるのではなく、以下のような支援が必要です。 ・ 親への具体的な子育てスキル教育の機会提供

・ 親のメンタルヘルス支援と負担軽減

・ 地域での子育て支援ネットワークの構築

・ 適切な「叱り方」「注意の仕方」の社会的共有

・ 専門機関への相談のハードルを下げる

親が安心して、適切に子どもに向き合える社会を作ることが、真の解決策です。

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発達障害ラボ

車 重徳

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自閉症スペクトラム(ASD)や広汎性発達障害(PDD)、学習障害(LD)やグレーゾーンの子の支援やトレーニングに定評のある発達障害ラボの室長です。 知能検査「WISC-Ⅴ(ウィスク5)」の実施や既存の結果による分析・アドバイスも行っています。 また、近年増えている起立性調節障害やHSC(敏感過ぎる子ども)の対応方法などにも定評があります。