発達障害のある子どもの癇癪はそうではない子どもよりも激しい理由
- 2025/12/13
発達障害のある子どもの癇癪が激しい理由
発達障害のある子どもの癇癪は、確かに頻度が高く、強度も激しく、持続時間も長い傾向があります。しかし、これは「わがまま」や「しつけの問題」ではなく、脳の発達特性に基づく生物学的・心理的要因が深く関わっています。
感情調整機能の未発達
発達障害のある子どもは、感情を調整する脳の機能(前頭前野の実行機能)が未成熟であることが多く、一度高まった感情を自分でコントロールすることが非常に困難です。定型発達の子どもは、成長とともに「怒りを感じても我慢する」「深呼吸して落ち着く」といった感情制御スキルを自然に習得しますが、発達障害のある子どもではこの発達が遅れたり、異なる経路をたどったりします。そのため、わずかな不快感でも感情が爆発的に高まり、自分ではどうすることもできない状態に陥ります。本人も苦しんでおり、「癇癪を起こしたい」わけではないのです。
感覚過敏と刺激の蓄積
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの多くは、聴覚、視覚、触覚、嗅覚などの感覚が過敏です。普通の人には気にならない音、光、匂い、肌触りが、耐えがたい苦痛として感じられます。例えば、教室の蛍光灯の音、衣服のタグの感触、給食の匂い、人混みの雑音などが、絶え間なく不快刺激として蓄積されます。この「感覚的疲労」が限界に達すると、些細なきっかけで癇癪として爆発します。いわば、コップに水が溜まり続け、最後の一滴で溢れ出すような状態です。周囲から見ると「些細なこと」で怒っているように見えますが、実際には長時間の苦痛の蓄積が背景にあります。
コミュニケーションの困難
言葉で自分の気持ちや要求を適切に伝えることが難しい子どもは、癇癪が唯一のコミュニケーション手段になることがあります。「お腹が痛い」「疲れた」「これは嫌だ」「もっとやりたい」といった内的状態を言語化できないため、身体全体で不快感を表現するしかありません。特に言語発達に遅れがある場合や、内受容感覚(自分の身体の状態を感じ取る能力)が弱い場合、この傾向が顕著です。また、周囲の意図や状況を理解することも困難なため、「なぜ今これをしなければならないのか」が理解できず、混乱から癇癪につながります。
予測困難性と不安
発達障害のある子どもの多くは、予測不可能な状況や変化に強い不安を感じます。「次に何が起こるか分からない」という状態は、大きなストレスとなります。予定の急な変更、いつもと違う道順、知らない場所、初めての活動などは、パニックや癇癪を引き起こします。これは「柔軟性のなさ」というより、予測できない状況への恐怖反応です。ルーティンや決まったパターンへのこだわりは、この不安を軽減するための自己防衛的な対処方略であり、それが崩されたときに激しい反応が生じます。
実行機能の弱さと欲求不満耐性の低さ
ADHD(注意欠如・多動症)の子どもは、衝動制御や欲求不満耐性が弱く、「待つ」「我慢する」「順番を守る」ことが非常に困難です。脳の報酬系の特性により、即座に欲求が満たされないと強い不快感を感じます。また、ワーキングメモリの弱さから、「後でもらえる」「明日できる」といった見通しを保持できず、「今すぐ欲しい」という衝動に圧倒されます。さらに、注意の切り替えが困難なため、一度「これがしたい」と思うと、他の選択肢に目を向けることができず、要求が通らないと激しく反応します。
過去の失敗経験とトラウマ
発達障害のある子どもは、日常生活の中で「できない」「失敗する」「叱られる」経験を繰り返しています。この蓄積された挫折感、自己効力感の低下、慢性的なストレスが、些細なきっかけで癇癪として噴出します。また、過去に癇癪を起こして要求が通った経験があると、それが学習され、癇癪が問題解決の手段として強化されることもあります。
身体的不調の表現
発達障害のある子どもは、体調不良、痛み、疲労を適切に認識したり言葉で伝えたりすることが苦手です。そのため、身体的不調が癇癪という形で表現されることがあります。頭痛、腹痛、発熱の前兆、睡眠不足、空腹なども、癇癪の背景要因として見逃せません。
睡眠障害の影響
・発達障害のある子どもは睡眠障害を併存することが多く、慢性的な睡眠不足が感情調整をさらに困難にします。睡眠不足は、前頭葉の機能を低下させ、衝動性や感情の不安定性を増大させます。
支援のポイント
癇癪への対応として重要なのは、以下の点です。
・予防的アプローチ: 癇癪の引き金(トリガー)を観察し、可能な限り避ける
・環境調整: 感覚刺激を減らし、予測可能で構造化された環境を整える
・視覚的支援: スケジュールや手順を視覚化し、見通しを持たせる
・代替コミュニケーション: 絵カード、サイン、タブレットなどで気持ちを伝える手段を教える
・クールダウンの場所: 安全に落ち着ける空間を用意する
・肯定的注目: 適切な行動をしているときに積極的に認める
・専門家との連携: 行動療法、感覚統合療法、薬物療法などの検討
まとめ
発達障害のある子どもの癇癪は、本人の意思や性格の問題ではなく、脳の発達特性に由来する生理的・心理的困難の表れです。「しつけが悪い」のではなく、特別な理解と支援が必要なのです。保護者の疲弊は当然のことであり、一人で抱え込まず、専門機関や支援者と連携しながら、子どもと家族の両方をケアしていくことが大切です。
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発達障害ラボ
車 重徳
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